SANplusICHI

「反省しろ、まずはそれから」

ひとの気持ちが分からない

ゆえにSっぽく見えるけど本当に分からないんだろうな、と。

個人的に自分の頭をすっきりさせる為にまとめたような文章です。 わりと兄視点。モブ男→ブラクストン表現少し有り。


「兄貴は俺の所在を知ってたらしいが、俺は10年ぶりに会ったんだ、飯でも奢ってくれよ。」

そうは言われても、今現在こうして、クリスチャン・ウルフは彼の弟であるブラクストンと会っている。

先日、ウルフは仕事の敵対相手としてブラクストンと再会し、「10年間探してた!」と怒られ(ブラクストンは声を荒げていたからあの反応は“怒っている”で間違いないだろう、とウルフは推測している)、別れ際に「連絡したい」と言われ「こちらから連絡する」と返し、約束通りウルフはブラクストンに連絡した。
電話すると『また会えないか?積もる話もあるだろ。』と電話口に言われ、「会うのは構わないが、話は積もるものじゃない。」と答えると『言葉のあやだよ。兄貴は変わらないな。』と笑われた。
ウルフにとってこの手の会話は方程式のようにインプット済みで、相手が困惑したり笑ったりすると「冗談だよ」と言うことにしている。それが“普通の会話”のように見えると彼は学習して覚えた。彼の弟を何年もやっているブラクストンにも同じように言うべきだとは思ったが、先に「“冗談だよ”だろ?言わなくていいからな。」と言われてしまった。
さすが、ウルフの弟だけあって、彼の脳の作りを理解しており、ブラクストンはウルフにとって分かり易い会話を展開してくれる。

『いつなら会えそう?』
「明日18時以降なら。」
『そうか。じゃあ、明日18時に俺に会いに来てくれ。俺の居場所は把握してるんだろ?』
「ああ。」
『ははは。さすがだな。』

最後だけ、なぜブラクストンに笑われたのか分からなかったが、“怒ってない”ことだけは分かったので黙っておいた。
その後はジャスティンにブラクストンの居場所を調べてもらい、会いに行くだけだった。それでブラクストンとの約束は果たしたはずだった。“連絡したい”と言われたので“連絡した”、“会いたい”と言われたので“会った”。依頼されたのは今のところ、その2つだけのはずだった。
ウルフはブラクストンに会った後のことを考えていなかった。なぜなら、それ以降のことは依頼されなかったからだ。

「飯でも奢ってくれよ」は文字通り、食事を提供してくれという意味だろうから、ブラクストンが空腹ということは分かった。よし、分かった。この後、食事を提供すればいいのだな。
ウルフが神妙な顔をするのでブラクストンは笑いながら答える。

「ああ、今、兄貴のおかげで失業中なんだ。ほら、こないだ俺の依頼人もチームも叩き潰してくれたからさ。」
「それで空腹なのか?私のせいで食事する資金も無いなら言ってくれれば援助を」
「今のは“冗談”だよ。まぁ、失業したのは本当だけど、さすがに食うには困ってねーよ。つーか、そういう意味じゃなくて」
「そういう?」
「飯でも奢ってくれってのはさ、食事を一緒にしてほしいって意味だよ。積もる話もあるって言ったろ?それも“食事でもどう?”っていう意味なんだよ。」
「なるほど。」
「…前に会った時と変わってなくてホッとするよ。」

ブラクストンはそう言ってウルフを近くのバーに連れて行った。
「食事をしたいのならレストランの方が適切では?」と聞くと「ここだって飯を出してくれる。行きつけなんだ。良いだろ?」と返された。良いか悪いかで言うと良い。ウルフはブラクストンが行きたいところならどこだってついて行くつもりだった。

二人が席についた途端「ブラクストン!アタシに靡かないと思ったら相手が居たのね!」とすでに顔を真っ赤にして酔っ払った、派手な身なりの男がブラクストンの肩を抱いてきた。

「おい、酔っ払い。今取り込み中だ。あっち行けよ。」

ブラクストンは迷惑そうに、だが楽しそうに手をシッシッと振って男を遠ざけようとする。しかし本気で嫌がってないのが分かるのか、相手も引かない。

「ちょっとアンタ!ブラクストンのなんなの?!」
「兄だ。」

ろれつの回ってない声で問うので、ウルフは声色を変えずに単調に、質問だけを答えた。

「まぁ!いやらしい!兄弟でそういう関係なの!?」
「バカ。なんでそうなる。普通の兄弟だよ。お前と一緒にすんな。」
「そういう、とは?」

ウルフは曖昧な言葉が苦手だった。言葉の裏に隠された意味が理解できない。言葉を“文字通り”にしか受け取れなかった。

「あら。本当にそういう関係じゃないのね。良かった♪まだブラクストンはフリーなのね♪」

そう言いながら男は「じゃ、兄弟水入らずで飲んでって」と別の客に絡みに行った。どうやらこのバーの店員だったようだ。
男はウルフの言葉を言葉通りに受け取らなかった。言葉の裏を勝手に読み取って、勝手に終わらせた。

「ブラクストン、“そういう”とは?」
「ああ、気にしなくていい。奴が勝手に勘違いしただけだ。」

ブラクストンは目線をメニュー表に移しながらそう言うが、ウルフにとっては“まだ終わっていないこと”だった。メニュー表をめくるブラクストンの右手を左手でギュッと握り、力を込めて再度問う。

「ブラクストン、“そういう”とは?」
「………手、痛ぇーよ。」
「………」

非難されるがどうしても解答を知りたくて黙りこくる。ブラクストンが先に折れ、「はぁ…」とため息を吐きながら、諦めて解答する。

「…“セックスする関係”かってことを聞かれたんだよ。」
「していない。」v 「…そうだよ…!してねーよ!!!」
「…?ブラクストン、怒ってるのか?」

他人が声を荒げるのは“怒っている”から。ウルフにとってこれもまた人間関係の方程式の1つだった。ただ、「怒ってるのか?」と聞いてみて人間関係がまるく収まる確率は低かったが。

「……ああもう…兄貴、出よう。」
「まだ何も食べてないが」
「いいから!」
「分かった。」

ブラクストンが急に声を荒げたせいで、店内がシンと静まり返っていたことに今更気付く。ブラクストンはいち早くそれに気づいて、店を出ようとしたのかもしれない。(実際はそれが理由じゃないかもしれないが、少なくともウルフはそう思った。)

店を出て、ブラクストンはウルフのトレーラーに我が物顔で乗り込み、ドスンとわざとらしく音を立ててドアの一番近くのソファに座った。

「なんで怒ってるかって?怒ってんじゃない。嫌な気分になったんだよ。」

先ほどまで店で話していた話題の、自身の「怒ってるのか?」に対する返答だとウルフが一拍置いて思い出す。

「なぜ?」
「なぜって………?」

じっとブラクストンを真摯に見つめるウルフに、彼は「ああもう!」と自分の髪をぐしゃぐしゃと掻き毟って答える。

「この際だから言うけどな、俺は兄貴と“セックスするような関係”になりたいと思ってんだよ!」
「………」
「でも現時点でそうじゃねーだろ!?だから“そういう関係か?”ってからかわれて嫌な気分になったんだよ!」
「………」
「なのに当の本人が何回も聞いてくるし、今最高潮に嫌な気分になってんだよ!」
「………」
「ちくしょう、なんでここまで言わなきゃ分かんねーんだ…。兄貴なんか好きになるんじゃなかった…。」

ブラクストンが泣きそうになっている。
自分の血を分けた弟ですら、他人の気持ちとなると分からなくなる。しかし、彼の目が潤んで今にも泣きそうになっているのは、ウルフの目にも見えるから分かる。

「ブラクストン」
「なんだよ!」
「セックスしたいならしてもいい。」

弟が自分とセックスができなくて泣きそうになっているならセックスしてもいい、とウルフは思った。「愛」とかいう曖昧な言葉が理由なのかは彼には分からなかったが、ブラクストンとセックスすることへの嫌悪感は沸かなかった。

「っ!バカにすんなよ!俺のこと可哀想とでも思ってんのか!?」
「思ってない。」
「だったら」
「お前がしたいならしてもいいと思ってる。」
「…兄貴は…したいわけじゃないんだろ…」
「分からない。」

誰かと触れ合いたいと思ったことがないから、「分からない」としか言えなかった。こんな会話のやりとりや、こんな人間関係の方程式は初めてで、解答例を知らない。用意してない。ストックが無い。「分からない。」

ウルフが険しい顔で固まっていると、ブラクストンがソファから立ち上がり、トレーラーのドアの前に立つウルフの頬に自身の手を添える。

「もしも、兄貴が俺とセックスしたいと思ったらさ…、俺に会いに来てくれよ。俺の居場所は把握してるんだろ?」

ブラクストンが目に涙を溜めながら、昔彼らの母がウルフにしてくれたように優しく笑い、その足でトレーラーを後にした。

(ブラクストン、今のはどういう感情なんだ?なぜ泣きそうなのに笑う?どうして急に母を思い出した?)

弟の理解できない表情に、いつでもフラットなウルフの脳は揺さぶられた気がした。ざわざわとした、いつもと違う心情に頭が落ち着かない。無理矢理落ち着かせようとして余計に焦ってしまう。


ソロモン・グランディ月曜日に生まれて火曜日に洗礼を受け水曜日に結婚して木曜日に病気になった金曜日に病気が悪くなり土曜日に死んだ日曜日には埋められて墓の中ソロモン・グランディは一巻の終わり♪
ソロモン・グランディ月曜日に生まれて火曜日に洗礼を受け水曜日に結婚して木曜日に病気になった金曜日に病気が悪くなり土曜日に死んだ日曜日には埋められて墓の中ソロモン・グランディは一巻の終わり♪
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いつものように歌っても、いつものように頭が落ち着かない。 すぐにまたブラクストンに会わなければ。

ソロモン・グランディ月曜日に生まれて火曜日に洗礼を受け水曜日に結婚して木曜日に病気になった金曜日に病気が悪くなり土曜日に死んだ日曜日には埋められて墓の中ソロモン・グランディは一巻の終わり♪


2017年2月14日