SANplusICHI

「反省しろ、まずはそれから」

めんどくささは生理が原因。

ジョン先生は医者なので「月経」という呼び方が一般的なんだろうけど、あえて「生理」呼ばわりしてるのはセクハラを込めての意思表示って…いらん解説。



例えば、シャーロックが月経だとしよう。
月経。生理。メンス。言い方は色々、精神症状も色々。

買い物をしていて急にボロボロと涙を流すから理由を聞いたら「わからない」と答えたのも
普段なら不謹慎なまでに目を輝かせるような難解な殺人事件の依頼を「だるい」と断ったりするのも
ソファで寝転がって遠くを眺めてるからマインドパレスかなと思って放っておいたら「なんでどうしたんだと声をかけないんだ!」と怒鳴ったりするのも
月経による情緒不安定状態だって言うんなら納得できる。
男だということを除いては。



「ジョン、ここに置いてあった薬を知らないか?」
「薬?どんな?」
「鎮痛剤だ。」
「え!?どこか痛いのかい!?なんで医者に相談しないんだ。一緒に住んでるのに!」
「怒鳴るな、ジョン。今は…良くない。」
「なにが!」
「鎮痛剤さえあれば問題ないんだ。どこにやったんだ。」
「何が良くないんだ?シャーロック。」
「悪いとは思ってるけど、今は何を言われてもイライラしてしょうがないんだ。鎮痛剤!鎮痛剤はどこなんだ!」

何様だアイツ。いつも以上に我儘で理不尽だ。
ああきっと毎月の「生理」だな、そうだ、そうに違いない。
そう思わなきゃコッチだってやってられないよ。


「ジョン、ジョン…」
「どうしたの?シャーロック」
「………」
「え!?どうしたのホントに!君が泣くなんて珍しいな…。」
「わからないんだ、ジョン…」
「うん?」
「なぜこれが止まらないのか分からないんだ、ジョン…」

僕だってなんで君が泣いてるのか分からないよ。
君自身でさえ分かってないっていうのも分からないよ。
本当に月経による情緒不安定なのかと思っちゃうよ…。


「シャーロック。面白いメールが着てるよ。読んでご覧よ。君の好きそうな事件だと思うぞ。」
「いい。」
「え?あぁ、僕の“面白い”は期待してないって?まぁ、メールを読んでみるだけでもさ…」
「ジョン、今は首無し騎士が殺人事件を起こしてようと家を出たくないんだ。」
「あ、あのさ、シャーロック。最近どうしたの?」
「今日はだるいんだ。明日見るからメールは削除しないでおいてくれ。」
「いや、そうじゃなくて、その、鎮痛剤が無いって怒鳴り散らしたり、急に泣き出して訳を聞くと分からないって答えたり、今だって難解な事件を断ってる。どうしたんだい?」
「分からないんだ。僕も不思議だよ。でも、しょうがないんだ。」
「何がしょうがないのか僕にはちっとも分からないよ!」
「僕だって分からないって言ってるだろ。」
「ああ、そうだったね!」
「僕だって厄介だと思ってるんだ。」
「治したいの?」
「出来るなら。」
「その、君の症状に思い当たる節があると言えばあるんだ。僕も詳しいわけじゃないけど、よく似てる病状があるんだけど…」
「言ってみてくれ」
「PMS。月経前症候群。言葉の通り、女性特有の病状ではあるんだけど、君の言動を見てるとそうじゃないかと思えてね。もちろん馬鹿馬鹿しいとは思ってるよ。君は男だから…。」
「ジョン、もし、僕が本当にそうだとしたらどうする?」
「え???ほ、本当にそうなの?」
「質問を投げかけてるのは僕だ。」
「え、あ、えっと、君と離れる最大の理由が無くなるかな…。」
「…そうか。」
「えっえっ、シャーロック!本当にそうなのか?!」
「ジョン、僕の裸を見たことがあるだろう?」
「え!?いつ!?へべれけに酔っ払った日とか!?」
「バッキンガム宮殿で。」
「ああ!アレか!紛らわしい言い方は止せよ!記憶がないのに何かしたかと思ったよ…。」
「何かって?」
「君が怖れてるアレだよ。」
「僕は何も怖くない!」
「それはそれとして…、そうだね。あの時に見たのは紛れも無く男の体だったね。」
「そうだ。僕は紛れも無く男だ。」
「そりゃそうだよね。僕だって馬鹿馬鹿しいと思ってるって言ったろ?」
「ああ。でも、悪くない返答だった。」

シャーロックがなんとも嬉しそうに笑うので「何のこと?」とは聞けなかった。


結局、シャーロックが“おかしかった”のは1週間ほどだった。
また「退屈だ!」と叫んでは僕を困らせるけど、意味もなく急に泣いたり怒ったりはしなくなった。

でも訳の分からない我儘が女性に振り回されてるようで悪くなかったかな、なんて。



2013年4月17日