SANplusICHI

「反省しろ、まずはそれから」

Qがブラコンだったら

所謂Bondlockってやつです。【J/S+00Q】
仲悪いシャーロックとQの兄弟も可愛いけどブラコンでも可愛くない?という妄想。J/S色が強いです。


「ここにシャーリー居ますよね。」

221Bのフラットに人が訪ねてきたと思ったらこれだ。
ジョン・H・ワトソンは面喰らっていた。
理由は3つ。
1つ、挨拶もなくこの言葉。
1つ、同居人であり自分の恋人をシャーリーと親しげに呼んでいる。
1つ、どことなくその同居人兼恋人に似た風貌の見た目。

「お邪魔しますね。」

ジョンが上記3つの事柄を頭に固まっていると、男はジョンを押しのけズカズカとフラットの中に入っていく。

「ちょ、ちょっと!君!;」

もしかして同居人の命を狙いに?
ありえる。というか、ありえた。今まですでに数度経験してる。
ジョンは経験したことのある最悪の事態を想定しつつ、男が同居人と鉢合わせないうちに止めようとしたが、足の長さの違いと、一瞬でも遅れた時間差、フラットの狭さに、ジョンが止める前に同居人と男が鉢合わせてしまった。

「シャーリー!」
「!!!Q!」

男はQというらしい。
名前よりも何よりも、そのQという男が、ジョンの同居人兼恋人であるシャーロック・ホームズに勢い良く抱きついて、シャーロックが避けもせずに抱きとめた事に、ジョンは本日2度目に面喰らいを受けた。

「し、知り合い?;」

コーヒーを入れて落ち着きを取り繕いながらジョンが2人に聞いた。

「コーヒーは結構です。紅茶なら。僕はシャーリーをよく知る人間ですので、どうぞ警戒は解いてください。」
「淹れなくていいぞ、ジョン。」
「紅茶は無いな…ハドソンさんに貰ってこようか。シャーロックをよく知るって…?」
「淹れなくていい!ただの弟だ。」
「英国人なら紅茶を飲むべきだよ、シャーリー。」
「マイクロフトのような事を言うのか。」
「マイキーは関係ないでしょ。」
「あいつにも同じ事を言われたぞ。」
「じゃあもう言わない。」
「そうしろ。」
「………もう紅茶とマイクロフト談義はOK?じゃあ、僕の驚く時間を頂いてもいいかい?…シャーロックの弟だって!?」
「はい。そうです。」
「そうだと言ったろう。」
「初聞きなんだけど!?」
「今言ったろう。」
「なんで言わなかったのさ!」
「聞かなかったからだ。」
「で す よ ね ! そう言うと思ったけどああもうちくしょう!なんだって聞いちゃったんだろ僕は!」
「落ち着いて紅茶淹れてください。ジョン。」
「淹れなくていい!ジョン!」
「君たちよく似てるよ!シャーロックの弟だって確信した!」

そしてやっぱりジョンがハドソン夫人に紅茶を貰いに行き、使ったことのないティーカップに淹れてから話は再開となった。

「で、何の用だ。お前の事だから僕の事なんて筒抜けなんだろう。」
「勿論、シャーリーが何をしていたかなんて知っていたよ。だって隠しもしてないじゃないか。」
「今更何の用だと聞いてる。」
「今更だなんて言わないで…シャーリー…君が家を出てから僕は寂しくてずっと君を見てたけど会うのは我慢してたんだから。マイキーと違って。」
「お前だって家を出て好きな事をしているじゃないか。」
「君が家を出たからじゃないか。知ってるだろ?僕は君が好きなんだって。」
「え!?;」
「落ち着け、ジョン。君が考えてる意味じゃない。兄として、だ。」
「シャーリーは信じられないくらい優秀だからね。君のパレスを電子化するのが僕の夢なのは今も変わりないよ。」
「マイクロフトだってそうだろう。」
「マイキーもそうだけど、苦手なんだもん。小さい頃ずっと一緒に居てくれたシャーリーが僕は大好きなんだよ。だから君のパレスに僕も一緒に住みたいんだ。」
「兄として、というよりはちょっと違うんじゃないかな?シャーロック…;」
「こいつはちょっとおかしいんだ。」
「僕自身もちょっと普通じゃないとは思ってるけど、それでもシャーリーには言われたくない。」
「確かに…;」
「避けたい話題なのか?」
「あ!そうだよ!用件だったよね?えっと、Q?だっけ…。」
「………シャーリー。」
「なんだ。」
「驚かないで聞いてほしいんだけど、シャーリーとママ以外で僕の電子世界に閉じ込めたい人が出来たんだけど、どうしたらいいのか分からないんだ…。」
「人間の電子化なんてお前の方が得意分野だろう。」
「そういう意味じゃないんじゃないかな!?シャーロック!;」
「じゃあ、どういう意味だ。」

シャーロックに久しぶりに会えて嬉しそうに彼を見つめて話していたQは俯き、不安そうに今度はティーカップを見つめて、一呼吸置いた。

「多分、僕に好きな人が出来たんだと思う。」
「うん?他人事みたいに言うね?どうして?」
「こんな感覚は初めてで。シャーリーとママはこういう気持ちになる前からこういう気持ちだったから。」
「…君と話してるとシャーロックと話してる気になるよ…。」
「僕はもっと論理的だ。」
「記憶から消したのかい?君が僕に告白してくれた時と同じような事を彼は言ってるよ。」
「言ってない。告白してない。君がしたんだ。」
「確かに僕も告白したけど、君だってしてくれたよ。」
「してない。した覚えがない。」
「言っただろ?」

“どうしてか分からないが、君とずっと一緒に居たい気がする”

「あれはただの感想だろう。」
「告白だよ!誰が聞いても!」
「分かるよ、シャーリー。僕も彼に対してそんな気持ちになるんだ。」
「彼!?ちょっと待って、今、君、“彼”って…!あ!ああ!僕らもナチュラルにカミングアウトしてる!;」
「ジョンとシャーリーがセックスしてる事なら僕もマイキーもここの大家さんも知ってるよ?あと、マイキーの秘書さんも。」
「うわぁ!アンシアまで!!!;;;」

Qの2つ目の告白に、ジョンは腰かけていたソファの肘掛から落ちそうになった。
なんとか体勢を持ち直して、持っていたコーヒーカップも中に入ったコーヒーもカーペットにぶち撒けずに済んだが。

「シャーリー、ねぇ、教えて。僕、どうしたらいいんだろう。君の優秀なパレスを電子化して答えを導き出せたら良かったんだけど、電子化も出来ないままにこんな問題にぶち当たってしまったんだ。」
「シャーロックのパレスを使っても答えは導き出ないと思うけど…。」
「そもそも興味が無い。Q、悪いがその手の分野だけはうちの助手の方が僕より優秀だ。」
「そうなの?」
「そうだとも!」
「不本意ではあるがな。」
「よしきた。このDr.ワトソンが悩める子羊に救いの手を差し伸べようじゃないか。」
「よろしくお願いします。」
「シャーロックの弟なのになんて良い子なんだ!」
「どういう意味だ。僕だって良い子だぞ。」
「それこそどういう意味だよ…。」

君が良い子なのはベッドの中だけだろ。
なんて親父臭い返しがジョンの頭をよぎったが、なんとか口には出さなかった。
2人だけのフラットならまだしも、今はシャーロックの弟が居る。

「それにしても、どうして君は彼を好きだと思ったの?」
「好き?これってやっぱり好きって事なのかな…。」
「少なくとも僕はそう思うけど。そう思うようになったきっかけとかってある?」
「…彼は、所謂仕事仲間で、彼が現場・僕がサポーターって感じなんだけど、僕が大事に使ってと言って渡した僕の発明品…彼にとっては仕事道具なんだけど、それを毎回壊すんだ。」
「君たちがなんの仕事してるのかよく分からないけど…、それで?」
「それで、僕は彼に小言を言うようになった。そしたら、僕の機嫌を伺うように、毎回毎回女性を口説く仕草で僕の腰に腕を回して謝るようになった。そうやって僕をからかってるんだと思う。僕は彼より幾分も若造だから。」
「まぁ、うん。そうだね、そ、そこまでなら男友達でも…(するかな…するよな…;)」

おや?なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ。と自称百戦錬磨のDr.ワトソンは思った。
たまにそういう事を男同士でふざけてするような事があっても、毎回は…どうだろう…、と。

「こないだなんかコレで許せって、廊下でキスしてきて、そりゃあ今まで腰を抱かれながら謝罪される時に顔が近いなぁって思ってたけど、初めてキスしてきて、それがすっごく長くて酸欠になるわ、口の中で彼の舌が動き回ってて何をされてるのか分からなくなるし、何故だか力が抜けちゃって立ってられなくて倒れそうなのを彼の無駄に逞しい腕に支えられて、最後には挨拶でするような軽いキスして可愛いなって頭を撫でて去っていったんだけど、僕は一体何をされたんだ!」

わなわなと震えながら頭を掻き毟るQに
「何って、キスだろ。お前が自分で言ったじゃないか。」
とシャーロックが何の感情も持たないような抑揚の無さで答えたのを聞いて、ジョンは1人で頭を抱えた。

はい!決定!はい!確定!!!
明らかにその彼は君を落とす気じゃないか!
そこまでされて相手の気持ちが分からないとは彼とやらも苦労するね。僕みたいに!
ジョンは会ったこともない“彼”に同情した。

「そ…それで、Qは、えっと…そこで彼を好きに?」
「分からない。でもきっかけはそうかもしれない。ねぇ、ドクター。僕はどうしたらいい?」

こてん。と効果音付けたい首の動きと上目遣いに、ジョンはキュンとしてしまう。
Qにではなく、その仕草をしたシャーロックを想像して。
ジョン自身も自覚こそしているが、結構シャーロックに参ってる証拠だ。

「どうするもこうするも…。その答えは彼とやらに聞いた方がいいんじゃないかな。」
「どうして…?」
「だって彼は君の事が好きな筈だから。」
「そんなのあり得ない。だって彼はシャーリーと恋仲になる前のジョン以上に女好きで女ったらしだよ。」
「嫌味のように僕を例えに出すところ、本当にシャーロックの弟なんだなって思うよ。」
「あの女ったらしが僕を好きなわけがない。だって」
「だって君は男だから?」
「そう。彼の好きな女のタイプに掠ってすらない。」
「シャーロックだって僕の好きな女の子のタイプと掠ってもないけど好きになったんだよ。」

ジョンはなんだか子供に聞かせるような口調でQに言う。
言葉にしてみて自分の気持ちまでほっこりと温かくなっていくのを感じながら。

「Q、好きな理由は人それぞれだろうけど、君曰く女好きのこの僕がシャーロックを好きになったように、女ったらしのその彼が君を好きになるような事だって否定はできないよ。」
「そうかな…?」
「そうだよ。」
「そんなに気になるなら盗聴器越しに聞いてみればいいだろう。」
「え!?盗聴器!?どこに!?マイクロフト?!」
「コートの裾だ。その部分だけ他の部分より盗聴器の重みで少し下がっている。一目瞭然だ。初見で分かる。マイクロフトならわざわざ装着型の盗聴器を仕掛けずともイギリス中がヤツの目であり耳であるんだから必要無い。衣服に無頓着で勘の悪く行動範囲が狭いQを知っての行動を見ると仕事仲間の犯行だろう。そして、コートを預けようもんなら返ってきた際にさすがに勘の悪い我が弟でも気付くはずだ。ところが今の今まで気付いてないところを見ると、先ほどの話で毎回腰を抱かれるまでに密着している“彼”とやらが犯人だろう。まぁ、盗聴器を仕掛けるような物騒な独占欲を持ち備えながらも、今だにQに手を出してないところを見ると幾分か紳士のようだがな。」

しれっと言いのけるシャーロックに、「Amazing!」と感嘆の声を上げたジョンが慌ててQのコートの裾を端から端まで触診してみると、確かに凹凸があった。触診してみてやっと分かる程度の。

「一目瞭然って全然分かんないよこんなの!;」
「気付かなかった…。やっぱり僕は…ホームズ家で一番出来ない子だ…。」
「勘が悪いとかそういう次元の話じゃないから気落ちしないでいいと思うよ!;」

しゅんと肩を落とすQと、「ていうか熱烈なディープキスは“手を出してる”だろう!」とジョンが。

「僕にはよく分からないが、マイクロフトが我々に向けるそれと似たようなものだろう。」
「え?マイキー…?」
「家族愛だのヤツの口から聞くのもおぞましいが、ヤツがヤツの権力をもって我々を至る所から監視するのはそういうことじゃないのか?ジョン。」
「え!?あ、う、うん。ただ弟が心配なんだと思うよ。」

急に話を振られてジョンはビクッと肩を振るわせて答えた。
愛する弟たちがマイクロフトの話題になっているのを、きっと彼はどこぞにある耳で聞いている。
張り付いたような笑顔の男が今はどこかで意気揚々と傘をくるくると回していることだろう。
それが心底嫌だとシャーロックは思ったが、他に例えようが無かったので仕方がない。
少なからず(マイクロフトとは違って)この弟相手には家族としての親愛があったのだ。

「分からないのなら聞いてみればいい。」
「…推理がこの世の唯一だと言うシャーリーにしては珍しい意見だね…。推理しろって言わないんだ?」
「さっきも言ったが、これに関しては僕は不得意分野だ。更に経験値も天と地ほど差がある相手に、知識すら持ち合わせていないのに立ち向かうほど僕は馬鹿じゃない。」
「聞いてもいいのかな?」
「僕のジョンは過去に僕に対して“どうしたらいいのか分からなかったら聞いてくれ”と言った。そのジョンが“彼に聞いた方がいい”と言ってるんだ。この分野じゃ僕はもうそれしか答えだと知り得ないだけだ。」

なんかもうすごい可愛いんだけどどうしてくれよう。
ジョンはシャーロックの言葉に1人で喜び震えていた。
(“僕のジョン”だって!ねぇ!聞いた!?盗聴器の彼、録音してないかな…!)

Qはそんなジョンに近づき、ジョンの手を取り、彼の手の中の盗聴器に囁いた。

「ねぇ、ボンド。聞いてるんなら教えて。僕はどうしたらいい?」

急に軽快な音とバイブレーション音がフラットに鳴り響いた。
咄嗟にQは自分のコートのポケットに入っていた携帯を取り出した。
メールが1件。

早く戻っておいで。

と一言だけ書かれた宛先は事前に登録されたモノでは無かったが、そのフラットに居た全員が誰からのメールか分かっていた。

「僕、戻ります。」
「もう来るなよ。」
「ええ、また来ます。」
「うん、またおいでね。」
「ジョン!」
「でも先に連絡してもらっていいかな?とんでもない時に来られたら堪らないから。」
「?分かりました。そうするようにします。」

駆け足になってしまうのをなんとか抑えるようにして、速足でQが221Bを去っていったのをシャーロックとジョンは窓から眺めて見送った。

「ジョン。」
「なに?シャーロック。」
「とんでもない時、とは一体なんだ。」
「…それって質問?」
「は?」
「“どうしたらいいのか分からなかったら聞いてくれ”」

にっこりなんて効果音付きで微笑むジョンにシャーロックはある事を勘づいた。
彼にとっては確かに不得意分野だが、それでも人の何十倍も学習能力は高いのだ。

「そういう意味か。確かにとんでもない。」

悪くない、といった顔でシャーロックが口角を上げたので、“彼”とやらの下に戻ったQもさぞかし『とんでもない時』を過ごすことだろう。
ジョンはそんな事を考えながらシャーロックを押し倒すことにした。



2013年7月15日