SANplusICHI

「反省しろ、まずはそれから」

運と間が悪い日

ローピタはチューくらいしかしてない。ちょこっとだけあるエリチャはアハーンな感じですがセリフだけです。



その日は朝から運が悪かったというか間が悪かったというか、酷くローガンをイライラさせる出来事が立て続けに起きた。

まず、夢見が悪かった。悪かったというほどローガンは覚えてはいないが、断片的には思い出させる。最悪の未来、自分の腕の中で大切な者たちを失くす夢を見た。いっそ目覚めた時にすっかり忘れていれば良かったものを。

そして、その夢見悪さを吹き飛ばそうと、ビールを煽りにキッチンに行くと、そこは見るも無残な廃墟と化していた。「誰か襲ってきたのか?」ローガンが唖然としていると、横から「ごめんよ、ローガン。ちょっと薬の調合に失敗しちゃって…」とハンクがチリトリと箒を持って現れた。薬の調合に失敗して夜中に暴れまわってしまったらしい。もちろん、ローガンのお目当てであるビールはおろか、冷蔵庫ごと木端微塵になっている。自分もよく起きなかったものだ。

仕方がないので、買い出しついでに(冷蔵庫の中身がゴミやがらくたになったことだし)街に出ることにしたが、昨日のうちにバイクのガソリンが無くなっていたのを思い出した。そういえば今日朝から街に行くはずだったハンクにガソリンを買ってきてもらうつもりだった。しかし、先ほどの通り、ハンクは片付けにかかりっきりである。やはりガソリンがあるうちに給油に行っておけば良かった、と後悔というのは後からやってくるものだ。

「ちっ…」

起き抜けからのうまくいかなささに思わず舌打ちが出るが、バイクを押してガソリンスタンドまで行くしかなかった。



「あれ!?今日は早いね!ローガン!おはよう!」

いつの間にか腰にまとわりついていたピーターに挨拶をされて、後から彼が起こした風が顔にぶつかった。

「おう、おはよう」
「どうしたの?街に行くの!?あ、そっか!ハンクがキッチンめちゃくちゃにしてたもんね!僕も一緒に行きたい!お腹空いたんだけど、あんな状態じゃあシリアルどころかスナックも食べられないんだもん。街に行ったら朝からドーナッツは重いかな?!でも、朝食こそしっかり食べなさいってチャールズが言ってたし、いいよね!?あ、ちょっと待ってて!僕もお金持ってくるね!」

ピーターのマシンガントークを聞き流しながらバイクを押し歩いていると、財布を取って戻ってきたピーターの起こす風がまたローガンの顔にぶつかる。

「ただいま!あれ?まだ居たの~?待っててくれたのかな?!なーんてね!ローガンとお出かけって嬉しいな~!デートみたいじゃない?」

ローガンの疲れた様子なぞ、ピーターにとってはどこ吹く風である。(それこそ彼が高速移動する度に起きる風のように)

街で更にローガンを苛立たせることがあった。
ピーターが迷子になったことだ。
もちろん、一人にさせて危険な年齢ではないが、彼は妙に変な性癖の連中に好かれ易かった。

『180cmもある身長ながら、どこか子供っぽさを残した雰囲気のアンバランスさと、アンニュイな顔つきが良い!』と以前彼を買いたがったどこぞの金持ちの男が、ピーターの居ないところでマグニートにどんな拷問を受けたか知っているのはチャールズとローガンだけであろう。

ローガンがバイクにガソリンを入れている間、「そこで待ってろ」と言われた場所でじっとしていられなかったピーターがどこかに消えてしまった。以前チャールズが「人間の目につく場所で力を使わない方がいいね」と言うと「誰の目につくって?」とそれこそ“目につかぬ”速さを披露したものだ。チャールズが隠していたハンクの薬を持ち出すという手段で。(もちろん、チャールズの薬はハンクが没収した。)
今回も同じ方法か、ローガンが目を離した隙に居なくなっていた。万が一、ピーターの身に何かあったら今度はローガンがあの金持ちの男のような末路を辿ることになるだろう。(マグスは実子への過保護さと他への非道さを足して2で割ればきっとチャールズと分かり合えることだろう、とローガンは思っていたが言える相手ではない)
給油し終わり、バイクで街中を探したがピーターを見つけられなかった。
「本当に何かあったのか?」と焦り始めたローガンが元の場所に戻ってみると
「ローガン!どこ行ってたのさ!」
と半べそかいたピーターに抱きつかれた。どうやら彼らはお互いを探し合ってすれ違っていただけのようだが、時間を無駄にした感は否めない。 「せっかくの休日なのに…!」
ローガンは「誰のせいだと思ってるんだ」という言葉を無理矢理飲み込んで、何も言うことはなかった。

そんなことがありつつ、買い出しも終わり、バイクに乗って帰ろうとしたローガンが、ピーターにヘルメットを渡した。もちろん彼を後部座席に乗せてやるつもりで。

「ほら」
「…いらない」
「あ゛?」
「走って帰った方が早いし」

ピーターは今だ休日が潰れたことを拗ねているようだった。

「そうかよ」
「…そうさ」

仕方がないので、ローガンが一人でバイクを走らせると、隣で並行して走ってきたピーターが「ばか!」と罵り、先を走っていった。確かに、彼に勝る速さのバイクなど存在しないだろう。(なんせ彼はそこらの戦闘機よりも速いんだから)

まだ夕方過ぎだと言うのにすでに長い1日だったと疲れて帰ってきたローガンを待ち受けていたのはチャールズからの非難だった。チャールズは学園内の全ての子供たちにとって優しい父親のような存在だが、ピーターのこととなると彼は“過保護な母親”のようになる。チャールズの非難を右から左へと受け流してはいたが、拘束されていたのは約3時間にも及んだ。

やっとローガンが念願のビールを開けることができたのは夜になってからだ。壊れたと思っていた冷蔵庫は、1日かけてハンクが修理したようだが、ビールを冷やすほどの時間を待っていられなかった。

「ローガン、今、いい?」

ローガンが今度こそビールを喉に流し込めるとなった瞬間に、ピーターに声をかけられた。彼はばつが悪そうにもじもじと項垂れている。

「なんだ」

ローガンはビールを飲みながら返答した。当人も、少し大人げないとは思いながらも不機嫌さを隠すことをしなかった。

「あ、あのさ、今日のこと、悪かったよ…。ご、ごめんなさい…。チャールズがあんなに怒るなんて思わなかったから、つい話を盛って愚痴っちゃった…」
「別に気にしてない」

というのは少し嘘だが。先ほど不機嫌さを露わにしてしまったし、ピーターもこの通り居た堪れない様だし、ローガンは暗に「だからお前も気にするな」と促した。

「あとさ…ばかって言ってごめん…」

それだけ言い残してローガンの返答を聞く前に、というよりはそれ以上話をしたくないかのようにさっさとその姿を消してしまった。彼の姿が見えなくなってから、彼が高速移動する時に起きる風だけがまたローガンにぶつかる。

「はぁ…」

あんな子供に気を遣わせてしまったのかと自己嫌悪する。今日はもうさっさと寝てしまう方がいいだろう。起きていても“今日という日”は良い事が無さそうな気がする。そう考えて、自室に戻ろうとした道中、チャールズの部屋から物騒な物音が聞こえた。「まさか車椅子から落ちたか?」と聞き耳を立てると

「ぁ!だ、だめ、エリック…っ!やだ、や…ぁ、やだ…っ!」
「チャールズ、お前はいつも口だけだな、下の方はもうこんなになっているというのに」
「ひぅうう…ッ!あっ、や、いわないで、いわないでよぉ」
「嫌だと言うたびにココがひくついて俺の指を放さないのはどういうわけだ?」
「は、はっはひっ、あ、んんんあああっエリック!エリック!おねがい、おねがいだから、もう…っ!」

…っ心配して損しただろうが…ッ!
ローガンは思わず脱力してその場に突っ伏して頭を抱えた。いや、この可能性を考えなかった自分も悪いのか?本当に“今日という日”は良い事がない。もう何が起きたってさっさとベッドに直行した方がいい気がして立ち上がると、目の前にピーターが立っていた。彼が神出鬼没なのはいつものことだが、今ばかりはさすがに間が悪い。

「ローガン?どうしたの?」
「ピーター…なんでここに居る…」
「あ、えーっと、チャールズに話しに来たんだけど…なんで?」
「なんの話だ?急ぎか?」
「い、いいじゃん!別になんでも!ローガンには関係ないよ!」

ローガンには隠したい話なのか、ピーターが話をごまかそうとしてチャールズのドアノブに手を掛けかけたので、ローガンは咄嗟にピーターの手を掴んだ。

「な、なに?」
「いいから、ちょっと来い」
「や、やだよ!」

騒がれるとまずいな…と思い、ローガンはピーターの薄い腹部に腕をまわし自分の肩まで担ぎ上げて、そのまま歩き出した。

「ちょ、ちょっと!ローガン!おろしてよ!」
「じっとしてろ」
「…ねぇ、まだ怒ってるの…?」
「はぁ?」

じたばたしていたピーターが急にしおらしく大人しくなったと思えばそんなことを言い出した。ローガンとしては、ピーターが気にしている内容でこうしているわけではないが、だからと言って説明できないからこうしているわけで…。

「…そんな怒んなくてもいいじゃん…。僕だって………ローガンとデートできるって…嬉しかったのに…1日つぶれちゃって……ショックだったんだから………」

「ああ、それで怒ってたのか」とローガンが妙に納得していると、ぐす…と水音が聞こえ始めた。

「!?な、泣いてんのか!?」
「泣いでない!」

どう聞いたって涙声で言われても説得力は無い。このままピーターを彼の自室に帰すつもりだったが、なんとなくそうすることもできずにローガンは自分の部屋へと足を向けた。

「だって!もっと恋人みたいなことできると思ったのに…っあ、あんな感じになっちゃって…バイク後ろ、乗れなかったし…ローガン怒るし…ひっぐ…」
「あーーー…泣くな泣くな…」
「だから…泣いてないって…!」

今だ廊下ではあったが、そっとピーターを下して顔を見やるとやはり泣いている。涙を堪えてるせいか、顔は真っ赤だし、少し鼻水が出ていて彼はそれを必死で拭っている。
ローガンは、決して自身をサディストだとは思っていないが、普段から可愛いと思っている人物のそういう顔を見ると、朝からの鬱憤もあってか、ついうっかりムラッとしてしまう。「このまま自分の手で泣かせたい」と思ってしまうのは、男としての性だろうか。

『180cmもある身長ながら、どこか子供っぽさを残した雰囲気のアンバランスさと、アンニュイな顔つきが良い!』

あの金持ちの男の言葉がローガンの中にストンと落ちた。今ならマグニートに拷問されても文句は言えないが、こうなった原因はマグニートにもあるのだから彼だって文句は言えないはずだ。

「ローガン…?」

今だローガンが怒っていると思い込んでいるピーターはおそるおそるといった様子でローガンの顔を覗き込む。9cmの身長差では自然と上目遣いになる。先ほどまで泣いていた顔で、涙目で、上目遣い。更に、色白でどこもかしこも色素が薄いのに今は赤面している。普段から可愛いヤツだと思い、「子供に手を出すわけには」と事あるごとにローガンが自制しているというのに。
“今日という日”はつくづく運が悪いし、間が悪い。
ローガンはため息をつきながら無言・無表情でまたピーターを俵担ぎにする。

「えっ?わわっ!」

不機嫌そうと揶揄られそうになる足取りで真っ直ぐ自室に向かうのは、そうでもしないとその場でピーターをどうにかしてしまいそうだからだ。 ローガンの部屋に到着し、ボスンッ!とローガンのベッドに投げ捨てられたピーターの頭の中はずっと混乱していた。

(なにこれなにこれなにこれ?!なんでこんな展開になってンの!?)

困惑しつつもローガンの匂いが香るベッドに自分が連れて来られたという事実はピーターを喜ばせたし、ドキドキもさせた。そんな彼の上に、ローガンが圧し掛かってきた。

「うぇ?あ、お、重いんだけど…えっと、ローガン?怒ってるの?」
「ピーター」
「はひっ」(あ、声うらがえった、はずかしいっ)
「セックス、していいか」

そうやってお伺いをたてながらもローガンの手はすでにピーターの服の中に侵入している。ローガンの無骨な手がピーターのきめ細かい肌を撫で、皮膚の分厚い指が似合わない優しい手つきで乳首を摘まむ。

「にゃあっ!ちょ、ちょ、ローガン?!」

思わず腕を突っ張るピーターだが、もはや力は入ってない。そもそも逃げようと思えば彼なら容易に逃げられるものを、逃げようとしないということは逃げたいと思っていないからだ。しかしピーターが戸惑っているのも無理なかった。何故ならいつもはピーターの方がベッドに誘う立場だからだ。今まではどんなに誘ってもノッてくれず、手を出してくれなかったローガンが、どんな訳だか今はピーターを押し倒しているのだ。テレパスでないピーターは訳が分からないままなのである。

「んんんぅううっふっぅ」

状況が飲み込めないでいるピーターをよそに、ローガンは彼の口に自分の舌を差し入れ、ピーターの舌をからめ取ってキスしてくる。

「んっんっふぅっぁふっ」

抵抗することも忘れ、固まっているピーターの舌を自分の口に誘い込んで甘噛みし、歯裏や舌裏、上顎・下顎を丁寧に隅々まで舐めていく。心なしかピーターの口内は甘く、ローガンは優しく丁寧にしようと心掛けるがついついがっつきたくなってくる。

(なにこれぇ…こんなのしらない…ローガンの舌きもちいいぃ…)

多少酸欠の気はあるが、ふわふわとした気持ちになってきたピーターに気付き、ローガンはやっとのことで口を離した。お互いの唾液でべちゃべちゃになったピーターの口元をローガンが舐め取っている間、ピーターはぼんやりと天井を眺めていた。はぁはぁと荒い息遣いになり、生理的な涙が出てきてしまうのはあんなキスに慣れていないピーターには当然のことであったが、ローガンの嗜虐心を簡単に煽った。

「ピーター…」
「………」

ピーターは今だ息を整えられておらず、返事の代わりに黙ったままローガンを見つめた。

「してもいいな?」

「それって、答え、聞いてないよね」とは思いながらもローガンの首に自分の腕を回してピーターが恥ずかしそうに伏し目がちに言う。


「さっきのキス、もっかいしてくれたら…」



やはり“今日という日”はローガンにとっては良くない。


2014年11月6日